昔ながらの茶畑が広がる秘境の茶産地・政所茶
暑い。
平成最後の夏はこんなに暑いのか。
こんにちは。TeaPotMagライターの長砂です。
少しでも暑さから逃れるために、滋賀県東近江市の東部にある「奥永源寺」エリアに来ています。
実は、この地域にとてもとても珍しい、貴重なお茶の産地があるんです。
滋賀県で有名なお茶には、朝宮茶と土山茶がありますが、かつてはこの2つにも勝るとも劣らない有名な産地だったのが、ここ奥永源寺にある「政所茶(まんどころちゃ)」です。
今回は、政所茶の地でお茶産業の維持・復興に力を注いでいる山形蓮さんにお話を伺いました。
明治以降の近代化に伴って効率化してきたお茶産業ですが、その波に乗らなかった政所茶ならではのお話をたくさん聞くことができました。
政所の平番茶
山形さんのお宅にお邪魔して、最初にいただいたお茶は平番茶という緑茶。
匂いが特徴的で、一般的な煎茶とは違うのですが、どう違うかを言葉で説明できない!(語彙力と表現力不足ですみません)
味は、すごく飲みやすく、一般的な番茶に近いですが、やはりこの平番茶ならではの特徴的な味です。
平番茶は、お茶の生産者さんが家で飲むお茶。
「平」はその製造工程の中で、茶葉が圧縮されて平たい状態になるからそう言われているそう。
春番茶とも言われ、新芽が出る前の3月ごろに収穫した茶葉を加工し、数ヶ月熟成させています。
現在、政所地域には70の生産者さんがいますが、販売用に作っている生産者さんは少なく、自宅用に作っている人がほとんどだとか。
家庭菜園のように、自宅の裏に自分用の茶畑があるんです。
政所茶の歴史
政所茶は古くは室町時代に記録が残っていて、江戸時代の番付では日本のトップレベルにランクインしていたそうです。
明治以降、産業革命により機械化が進み、お茶業界もその波に乗りました。
機械による効率化だけでなく、茶葉の品質を安定させるために、静岡県で生まれたヤブキタ品種が全国に広まっていきます。
一方で山奥の急斜面に作られた政所茶では、機械化の波にのらず、新しい品種に植え替えることもせずに、在来の茶樹を無農薬、無化学肥料で大切に育て守ってきました。
機械で効率的に茶葉を摘もうとすると、みなさんがよく知っている茶畑のように茶樹を一列に並べるのですが、政所では茶樹は整列されていません。これが茶畑の昔ながらの姿なのです。
肥料は、藁など植物由来のものだけで、有機肥料だとしても動物由来のものは使わないそうです。
山形さん曰く「肥料を与えるというより、茶樹から新芽や茶葉を摘んでいただいたので、その分をお返しする感覚」なんだそう。
昔に比べて30分の1になってしまった政所の茶畑は、生産者の高齢化によって管理できなくなった茶畑も毎年増えていて、お茶の生産地として維持するのも大変な状況です。
これまでも、これからも政所ならではの作り方を
政所のお茶の生産は、効率的ではない分、労力がとてもかかるし、量も多くはとれないので、他の産地に比べて高価なものにして売らないと利益もでにくい。
歴史もあるので、「ストーリーで高く売れるんじゃないか」という意見もあるけど、まだまだ味や品質が十分じゃない。その技術が他の地域に比べると遅れていると、山形さん。
今までの作り方を継承し味や品質にもこだわる「生産者」としてだけでなく、もっと政所茶を知ってもらう活動にも積極的です。
山形さんは、政所茶の生産だけでなく、今はワークショップや観光ツアーの受け入れもやっています。
大人気になっているのが、和紅茶のワークショップ。
訪問したのは8月上旬でしたが、すでに10月のイベントが満員になり、キャンセル待ちも出ているそう。
政所の新茶をいただきました。
「最初の味は、茶樹のもつ味。あとからくる味はその土地のもつ味。
政所茶はあとからくる味が長く続くのも特徴なんです」
と山形さんがおっしゃるように、政所茶の新茶は、高級茶のもつ濃厚な味とは違う味。
政所の土と、政所だけの茶樹がもつエネルギーがギュッと詰まっているように感じました。
滋賀県東近江市にある政所には、まったく知らなかったお茶の味、景観、物語がありました。
政所茶は「道の駅 奥永源寺渓流の里」で購入できるそうです。