読んだ後、おいしいお茶を淹れたくなる。はあちゅう初の小説「とにかくウツなOLの、人生を変える1か月」
お茶のシーンが印象的に描かれている映画や書籍はたくさんあります。Teapot Mag.では、公式ライターが気になった、お茶のシーンが登場する映画や書籍を随時紹介! 記念すべき1回目は、人気ブロガーはあちゅうさんの初となる小説「とにかくウツなOLの、人生を変える1か月」を取り上げます。
とにかくウツなOLの、人生を変える1か月
text by ライター 江角悠子
本書には、お茶を飲むシーンがたびたび登場する。主人公・奈緒は慢性的な倦怠感を持つOL。もっともっと自分の人生をよくしたいと考える中、表参道で偶然見つけたのが、メンタルを鍛えるためのジム、その名も「メンタルジム・ヒカリ」だ。奈緒はここで1か月間、人気モデルの中条ヒカリとのカウンセリングを通して、漠然とした不安の正体と向き合ってゆく。
お茶が登場するのは、カウンセリングが始まるとき。ヒカリが毎回「今日は何を飲む? ラベンダーティー、マンゴーティー、ライチティー、それから台湾のちょっといい烏龍茶もあるわ」と言っては、奈緒においしいお茶を振る舞ってくれる。
あるときは、スカッとするミントティー、香りの良いローズティー、爽やかな甘みのグレープフルーツティー、リラックス効果のあるシナモンティーなどなど、決まっていろいろなお茶が提案される。好みの一つを選び、いれてもらったお茶を飲んだ奈緒は、優しい香りに癒されたり、お茶の温かさに心が柔らかくほぐされたりする。お茶が出てくるシーンになると、読んでいるこちらまで一息いれた気分になるくらい、とても印象的に描かれていた。
奈緒はやがて、お茶好きのヒカリの影響を受け、忙しい仕事の合間にも自分のために丁寧に紅茶をいれるようになったり、部署のメンバーにチャイを振る舞うようになってゆく。
そうして過ごした1ヶ月。カウンセリングの最終回の日に、奈緒がヒカリに問いかける。毎回素敵なお茶が出てくるのには何か理由があるんですか? その答えがまたとびきり素敵だった。
よくホームステイ先のおばあちゃんが美味しいお茶をいれてくれたの。当時は会話とかもあんまりできなかったのだけど、誰かと一緒に、隣同士でお茶を飲んでいるだけでも落ち着くんだなってことを知ったわ。あと、人がいれてくれたお茶って美味しいなぁって思って。そういうことに気づけるだけでも、人は一歩前に進めるのよね。だから今度は、誰かのためにお茶をいれてあげようと思ったの。
奈緒の抱えていたモヤモヤとした倦怠感の原因は何だったのか。本書を読み終えた今、私の中にも小さくあった倦怠感が少し薄れて、前向きになれたような気がする。物語が進んでいく中で、私も奈緒と一緒にカウンセリングを受けたかのような。
私は自宅で原稿を書くときは、デスクに座る前にキッチンに立ってコーヒーか、お茶を淹れる。コーヒーは、気が向いたら豆から引いて淹れている。日本茶を飲むときは、急須に茶葉をいれ、沸騰したお湯を少し冷ましてから淹れる。最初は面倒だったのが、今ではあえてひと手間かけることで、家にいる「お母さん」から「働く人」にうまく切り替えられるような気がしていた。そして本書のおかげで、お茶を淹れるこの時間が、もっとずっと大切なものになったような気がする。
とにかくウツなOLの、人生を変える1か月/はあちゅう/株式会社KADOKAWA
読んだ後は、おいしいお茶が飲みたくなる小説。皆さんもぜひ、自分のために、大切な人のためにおいしいお茶をいれてみてください!