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<Teapot Mag. お茶エッセイ>「お茶しよー!」の言葉は、心と体を解放する魔法の言葉 〜野沢温泉村の民宿バイトでの「お茶会」〜

私の愉しみ方

「お茶しよー!」

そのかけ声が響き渡った瞬間、それぞれが手を止めて一目散に厨房に集まる。

学生の頃から、長期休みのたびにお世話になった信州野沢温泉村の民宿での「お茶会」。
それが開かれるのは、朝の10時と夕方前の4時の1日2回。
必ずみんなでテーブルを囲み、お茶請けとともにお茶を楽しむ。

私の育ってきた環境ではそのような習慣がなかったから、最初は何の集まり?
たまたま開催されたお茶会に遭遇しただけ?
と思っていたけれど、徐々に毎日「開催」されることを知る。

ここには、お手伝いのおばちゃんや私のような大学の長期休みを利用してアルバイトにくる学生が数名いて、早朝から夜遅くまでずっと一緒に、それはそれはにぎやかに民宿のお仕事に就いていた。重労働であったけれどちっとも辛くもなく、何をしていても楽しくて仕方のない毎日だった。

楽しさを増してくれるのは「お茶の時間」。
民宿内を走り回って掃除をしていると「お茶しよー!」と大きな声が聞こえてくる。
誰もが即座に集合!
今日のお茶請けはなにかなーってわくわく。

「今朝着いたお客さんがお土産に持ってきてくれたお菓子ー!」と丁寧に包まれた立派なお菓子がでてきたり。野沢菜もあったり。
甘いもんとしょっぱいもん。最高な組み合わせ。
そして緑茶。

地元のおばちゃんやさまざまな地域から来ている学生、民宿の家族、さらにはたまたま居合わせたお客さんも混ざる。
世代もバラバラ、話すネタもさまざま、なのにお茶と一緒に全てが融合されていく時間。

飲んでも飲んでも、湯飲みにつがれていくお茶。半分ぐらいになった瞬間に目ざとく誰かが見つけ、誰ともなくついでいく。

つがれたら、最後までありがたくおいしく飲むのがお約束。

おいしい。

なんだろ、誰かにいれてもらうお茶ってなんでこんなにおいしいんだろう。
体を動かしたあとのお茶。何かに一生懸命になっていたあとのお茶。
体に染みわたるちょうどよい温度のお茶。

茶葉については、どこどこの銘柄で、とても有名なおいしい茶葉だよ、など、そんなたいそうなものではなく、ただただ、ちゃんと急須を使って茶葉を入れて程よい緑色で……そんなレベルである。
とにかく程よくおいしい。

朝が早い民宿の仕事だけど、まずはこの10時で心と体をリセット。

そして次のお茶会は、午後4時。
お昼休みが終わった後の「さぁ、仕事するぞ!」という始まりの合図のお茶。
お茶とお茶請けが、体にエネルギーを補給してくれるのです。

特に私の好きだったお茶請けが一つある。
野沢温泉村に滞在することがなかったら恐らく一生知らなかったであろう一品。

「芋なます」

「じゃがいもの芋なます」 ※みんなのきょうの料理(NHKエデュケーショナル)より引用

ご存知でしょうか。

北信地方の郷土料理で、じゃがいものシャリシャリとした食感を楽しめる、素朴な料理。
作り方は簡単。

 

①じゃがいもを千切りして、でんぷんが抜けるまで水にさらす

②鍋で、じゃがいもを少量のサラダ油で炒め、すぐに酢を入れる

砂糖を多めに加え、を少々ふり、味を整える

④じゃがいもを焦がさないように炒め、汁がなくなり、透き通って照りがでてきたら完成!

たったこれだけ!

甘さに加え、ほどよく酢が効いているので、お茶がどんどん進む。
見た目は白一色で地味だけど、これだけでひとつの小鉢になる立派な一品。
あぁ、今これを書いている間にも食べたくなってきた。
作ろう。今すぐに作ろう……。

それにしても、このお茶の時間ってなんだろう。
お腹がすいたから集まる、というものでもない。

ちょっと休憩、という感覚が大きいけれど、それ以上に、お互いの顔を合わせて、お互いの調子を感じて、お互いを知るためにお茶の時間がある、という考え方がしっくりくる。

誰が仲間に入っても大歓迎。

「お茶しよー!」のかけ声からはじまる穏やかな時間。

季節によって、温かい緑茶のときもあるし、冷えた番茶を飲むときもあるし、とにかく何だっていい。お茶を飲むという時間を共有して、心と体を穏やかな状態にもっていく。いろいろな話をして、一緒に笑って、一緒に考えて、一緒に思いを分かち合える時間がもてる。それは相手がいなくたっていい。ひとりでお茶するのもよい。心が穏やかになって、「ふーっ」と一息つく特別な時間だ。

平均寿命が長い長野県。
科学的な理由をしっかり理解していない私だけど、お茶がもたらす穏やかなひとときが「心と体のストレスを開放する力」となり、平均寿命に関係してくるのかな、と思う。
だから、ストレスを解き放てる時間は、とても大切なんだって。

よし、日常に「お茶しよー!」という時間を作っていこう。この素敵な「お茶」がもたらす、心と体が解放される時間をたくさん持とう。

毎日、やるべきことに追われ忙しさにかまけている日々。そんな中にほっと一息、5分でもいい。「お茶の時間」を持つことによって、心と体のリセットをする。

これからは、そんな時間を積極的に持ってみようと思う。

北村涼子

ものごごろついた時から冬は「番茶」、夏は「麦茶」の家庭で育ち、それが当たり前の感覚でした。温かい番茶と冷えた麦茶。母がお茶を番茶から麦茶、麦茶から番茶へ変え...

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